飲食店が集客のためにITツールを導入すると、その費用が原則として半分まで戻ってくる制度があるのをご存知でしょうか?
これは「デジタル化・AI導入補助金」という制度で、2025年度までは「IT導入補助金」と呼ばれていたものです。
個人経営のお店も対象になっているので、小さな飲食店でも申請することができます。
ただし、交付決定の通知が届く前に契約や支払いを済ませてしまうと補助金は1円も受け取れなくなるので注意が必要です。
また、費用はいったんお店が全額を支払う必要があり、補助金は導入と実績報告が済んでから振り込まれる仕組みです。
知らずに進めて損をすることがないよう、契約の前に条件とお金の流れを確認しておきましょう。
(※数字と日付は、2026年9月19日に補助金の公式サイトと公募要領で確認しています。制度は変更になることがあるので、申請の前に公式サイトで最新の情報をご確認ください。)
この記事の要点
- 通常枠の補助率は原則1/2以内で、補助額は5万円以上450万円以下です。
- 費用は先にお店が全額を支払い、実績報告と確定検査を経てから補助金が振り込まれます。
- 発注・契約・支払いは交付決定のあとに行います。先に済ませると補助金は交付されません。
- 個人事業主も対象で、直近の確定申告書の控えを含む4種類の書類を提出します。
- 「キャッシュバック」「実質無料」をうたう勧誘は不正行為の可能性があると公式サイトが注意を呼びかけています。
補助金は原則として費用の半分が上限で後払いです
通常枠の補助率は原則として1/2以内と決められています。たとえば50万円のツールを導入した場合、補助される金額は25万円が上限となり、残りの25万円はお店の負担です。
また、補助額には下限と上限があり、導入するITツールが対応する業務(プロセス)の数によって2段階に分かれています。
| 導入するプロセス数 | 補助額 |
|---|---|
| 1プロセス以上 | 5万円以上150万円未満 |
| 4プロセス以上 | 150万円以上450万円以下 |
プロセスとは、ITツールが対応する業務の種類のことです。
公募要領では、どの業種にも共通する5つのプロセスと業種ごとの固有プロセスなどに区分されており、飲食店に関係の深いものとしては次のような例があります。
- 顧客対応・販売支援:予約受付台帳、顧客管理(CRM)
- 決済・債権債務・資金回収:POSレジ、発注・仕入管理
- 供給・在庫・物流:在庫の分析、実地棚卸の管理
- 会計・財務・経営:仕訳や帳簿の作成、経費精算
- 総務・人事・給与・労務など:シフト作成、給与計算、出退勤の管理
- 飲食業の固有プロセス:セルフオーダーシステム、テーブル管理、食材管理
導入するITツールがこのうち4種類以上のプロセスに対応している場合に、150万円以上450万円以下の区分で申請することができます。
なお、最低賃金に近い時給で働く従業員が多いお店は補助率が2/3以内に引き上げられます。
令和6年10月から令和7年9月までの間に、令和7年度の改定後の地域別最低賃金を下回る時給の従業員が全体の30%以上を占めた月が3か月以上あればこの条件に当てはまります。
補助の対象になる費用としてはソフトウェアの購入費とクラウド利用料があります。
このうちクラウド利用料は最大2年分までと決まっていて、月額3万円のサービスなら72万円までが対象経費に含まれ、3年目以降の利用料は対象外になります。
そのほか、導入設定や研修、保守サポートの費用もオプションとして対象に加えることが可能です。
お店が費用を支払うタイミングは交付決定のあとで、補助金はすべての手続きが終わってから振り込まれます。
| 段階 | 行うこと | お金の動き |
|---|---|---|
| 交付申請 | IT導入支援事業者と共同で書類を作り、宣誓して提出する | なし |
| 交付決定 | 交付決定通知を受け取る | なし |
| 発注・契約・支払い | ツールを発注し、契約して代金を支払う | お店が全額を支払う |
| 実績報告 | 発注・契約・納品・支払いの証憑をマイページから提出する | なし |
| 確定検査・補助金額確定 | 検査結果と交付決定額をSMS認証で承認する | なし |
| 入金 | 補助金を受け取る | 補助金が振り込まれる |
実績報告から入金までの日数は公表されていないので、補助金が入金されるまでの間も資金繰りに困らないよう支払いの予定を立てておきたいところです。
また、発注・契約・支払いを交付決定の前に行ってしまうと補助金は受け取れなくなります。公式サイトにも次のように記載されています。
交付決定前に発注・契約・支払い等を行った場合は、補助金の交付を受けることができません。
「締切が近いので契約だけ先に済ませましょう」と急かされたとしても、そこで契約してしまうと補助金の対象から外れてしまいます。
契約日も支払日も必ず交付決定通知が届いたあとの日付にしてください。
交付申請には事務局の審査があり、不採択になることもあります。補助金が出なければ成り立たない計画は最初から立てないほうがよいでしょう。
出典:通常枠の補助率・補助額・対象経費(公式)、申請・手続きの流れ(公式)、交付決定後に必要な手続き(公式)、通常枠の公募要領(PDF)
個人経営の飲食店も対象です
公募要領の「中小企業等の定義」は、どの業種の行も「…以下の会社及び個人事業主」と書かれており、個人事業主も申請することが可能です。
飲食店は小売業に該当するため、資本金が5,000万円以下か常時使用する従業員が50人以下であれば規模の条件を満たします。
なお、従業員の数には役員と個人事業主本人を含めません。美容室やサロンのようなサービス業の場合は従業員100人以下が基準になります。
交付申請で提出する書類は法人が3種類、個人事業主が4種類あります。ほかの書類で代えることは認められていないため、表にある書類をそのまま用意してください。
| 用途 | 法人 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 実在または本人の確認 | 履歴事項全部証明書(発行から3か月以内) | 運転免許証・運転経歴証明書・住民票(発行から3か月以内)のいずれか |
| 事業実態の確認 | 税務署発行の直近分の法人税の納税証明書(その1かその2) | 税務署発行の直近分の所得税の納税証明書(その1かその2)と、税務署が受領した直近分の確定申告書の控え |
| 財務状況の確認 | 直近分の貸借対照表と損益計算書 | 所得税の青色申告決算書か収支内訳書 |
2026年(令和8年)の申請で提出する確定申告書の控えは直近の令和7年(2025年)分となります。やむを得ない事情がある場合は令和6年分の提出も可能です。
また、控えは税務署が受領したことを確認できるものにかぎられます。具体的には、第一表の控えに受付番号と受付日時が印字されているか、受信通知を添付するかのどちらかが必要です。
税理士の印だけが押された控えは対象外になるので、ここは気をつけたいところです。
公募要領の対象者の章を読むかぎり、創業からの年数や売上の下限は条件に含まれていません。
ただし、これらの書類は必ず求められるため、開店して最初の確定申告か決算を終えた時点が申請を考えはじめる目安になるでしょう。
出典:通常枠の公募要領(PDF)、中小企業庁 中小企業・小規模企業者の定義
「実質無料」や「キャッシュバック」をうたう勧誘は不正行為の可能性があります
補助金の公式サイトには「不正行為にご注意ください」という専用のページがあり、「キャッシュバック」「実質無料」などをうたう勧誘に注意を呼びかけています。
禁止行為の例として次の一文が挙げられています。
会計ソフトの購入費用を後日、IT導入支援事業者もしくは第三者から返金される
お店への勧誘の言葉に置き換えると次のようになります。
- 「導入費用は後から返金するので実質無料です」
- 「紹介料やコンサル料の名目で、あとからお金をお渡しします」
- 「GビズIDを預けてもらえれば、あとは全部こちらでやります」
3つめは代理申請行為にあたり、公式サイトが明確に禁じています。
アカウントを他人に渡すと、申請の内容を自分で確認できないまま手続きが進んでしまいます。
不正行為とみなされると、交付決定の取消、補助金の返還請求(加算金を課した返納)、事業者名の公表、警察への通報といった罰則を受けることになります。
補助金を受け取ったお店自身が返還を求められ、名前も公表されるため、勧誘した事業者だけでなくお店も責任を問われます。
こうした話を持ちかけられたときは、その場で返事をせず、「公式サイトの不正行為のページで確認します」と伝えて回答を保留しましょう。
まっとうな事業者なら確認が済むまで待ってくれるはずです。
出典:不正行為にご注意ください(公式)、不正情報提供の専用WEB窓口の開設について(公式)
集客のツールが対象かどうかは登録名で検索すればわかります
補助を受けるには、事務局に登録されたITツールを、同じく事務局に登録されたIT導入支援事業者と共同で申請する必要があります。
そのため、対象になるかどうかはツールの中身より先に登録の有無で決まります。
登録されているかどうかは、公式のITツール検索にツールの登録名とIT導入支援事業者の登録名を入れると確かめることができます。
商品名と登録名が違うことはよくあるため、業者には「そのツールは何という名前で登録されていますか?」「IT導入支援事業者としての登録名は何ですか?」と尋ねて2つの登録名を確認してください。
検索は5分もあれば済むので、営業が終わったあとにでも試してみてください。どちらかがヒットしない場合は契約の話をいったん中断しましょう。
公式サイトの活用事例を見ると、レジや在庫管理の事例が多く掲載されています。
飲食業の事例ではPOSレジ&オーダーツール、セルフレジ、急速冷凍機が導入されており、成果として「会計ミス9割減、客単価2割UP、食材ロス4割減」が挙げられています。
一方で、MEOや口コミ管理のツールを取り上げた事例は見当たらず、こうしたツールがどの業務区分に該当するのかを示した一覧も公式サイトでは見つかりませんでした。
集客のためのツールが対象かどうかを知りたい場合は、前例を探すより登録名で検索するほうが早いでしょう。
制度の名称にAIが加わりましたが、AIのツールもほかのツールと同じ申請枠で申請します。
2026年からはITツール検索でAI機能のあるツールを絞り込めるようになった一方、補助率と対象経費はほかのツールと変わりません。
「AIだから補助が手厚くなります」と言われたときは、どの申請枠の話なのかを相手に確かめてください。申請枠は通常枠を含めて5つあり、それぞれの金額と条件は公式サイトの申請枠の一覧で確認できます。